身元保証と医療同意権
前回「終活の第一歩」の続きです。
前回のコラムで「身元保証サービス」というものに触れましたので、それについて解説しましょう。
・そもそも身元保証人とは
身元保証人、または身元引受人と呼ばれたりしますが、法令上はそういった用語はありません。一般的には本人の代わりに損害を担保する人。といった意味合いとして使われたりしています。
※雇用契約上の「身元保証」と医療機関で使われる"身元保証"は意味が異なりますから注意しましょう。
さて、少子高齢化が一層進む本邦においては認知症などによって判断能力が不十分な人が増え、単身世帯の増加、親族がいない、身寄りのない人の増加も見込まれます。そんな昨今において一人暮らしの高齢者を対象にした「身元保証・身元引受サービス」、日常生活支援や死後事務委任などのサービスも増えてきました。
用語:死後事務委任
生前のうちに信頼できる第三者に自身の死亡後に発生する手続き(葬儀・埋葬・行政手続き・清算手続き)を依頼する契約のこと。後に出てきます任意後見と併用する場合も。
しかし、身元保証・引受サービス事業に関してはそれらを指導監督する行政機関が明確でなく、実態についても把握されていない現実があります。ということは、何かあっても苦情・相談先となる行政機関も不明瞭ということも意味します。
さて、一口に「身寄りのない」といいましても、それはどういう意味なのでしょうか。厚生労働省「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思表示が困難な人への支援に関するガイドライン」において同省は以下のように考えています。
①家族や親類への連絡がつかない状況にある人
②家族の支援が得られない人
そこで先に申しました「身元保証・引受サービス」が出てくるわけですが、医療の現場において問題になるのが「医療行為の同意」いわゆる「医療同意権」です。
基本として医療行為の同意については本人の一身専属性の強いもので身元保証人・引受人といった第三者に同意の権限はないものと考えられています。
用語:一身専属性(一身専属権)
権利の性質上、その人個人の人格、身分と密接な関りがあることからその人(本人)のみが行使できる権利のこと。第三者に譲渡はできない。
家族等がいれば、その家族等が本人の意思を推定できるときはその推定意思を尊重し、本人にとっての最善の方針をとることができますが、第三者にはそれがありません。そのため、基本的に家族等がある場合が前提にはなるのですがエンディングノートに「治療に関する意思表示」と前回のコラムに書かせていただいた次第なのです。
なお、蛇足にはなりますが、成年後見人・・・これは認知症、知的障害、精神障害などの理由によって判断能力が不十分な方々は、不動産、預貯金といった財産の管理、介護等のサービスを受ける際の契約を結ぶこと、遺産分割協議をしなければならない場面において、自分でこれらのことをするのが難しい場面があります。そこでこのような判断能力の不十分な方々を保護・支援するのが成年後見制度になります。これには「法定後見」「任意後見」の2つがありますが、この成年後見人にも医療同意権はありません。
さて、身元保証・引受サービスにはついては問題がもう一つあります。それは死亡届の提出についての問題です。
ここで戸籍法87条を見てみましょう。
第八十七条 次の者は、その順序に従つて、死亡の届出をしなければならない。ただし、順序にかかわらず届出をすることができる。
第一 同居の親族
第二 その他の同居者
第三 家主、地主又は家屋若しくは土地の管理人
② 死亡の届出は、同居の親族以外の親族、後見人、保佐人、補助人、任意後見人及び任意後見受任者も、これをすることができる。
以上見てもわかるように、身元保証人はあくまで第三者ですから死亡届を出すことはできません。
ですから、身元保証・引受サービスの提供を受ける際にはこちらについてもどうなのか。といった点について確認しておくべきでしょう(任意後見人としての契約はするのか・しないのか)。
用語:任意後見
将来の認知症等に備えてあらかじめ本人自らが選んだ人(任意後見人)に将来委任する事務の内容を公正証書で定めておき、本人の判断能力が不十分になったときに、任意後見人が委任された事務を本人に代わって行う制度。
