種苗法、品種登録制度の概要
種苗法(しゅびょうほう)では、新品種保護のために「品種登録制度」と種苗の適正な流通を確保するための「指定種苗制度」があります。
そのうち「品種登録制度」とは、一定の要件を満たす植物の新品種を農林水産省に登録することで育成した者に「育成者権」を付与し、知的財産として保護する制度です。
A.育成者権の中身
育成者権者は登録品種の種苗、収穫および一定の加工品を独占的に利用することができます。よって、育成権者以外の人は育成者権者の許諾を得なければ登録品種を利用することができません。
また、育成者権者は、登録品種の種苗等の利用を他人に許諾して利用料を得ることができます。ほかにも財産権として譲渡することもでき、質権を設定することもできます。
コラム:質権
質権とは、債権者が債権の担保として、債務者または第三者から受け取ったものを占有して、債務不履行時にそのものを処分して弁済を受ける権利のことです。小難しいですね。借金のカタです。質草とか質物と言ったり。質権は、不動産、動産、権利に設定できます。一方で抵当権は不動産、地上権、永小作権に設定できます。質権と抵当権の最大の違いは、質権は質草を質権者が保管しますが、抵当権は抵当物を所有者が管理して使用収益を継続できるというものです。住宅ローンなど、銀行の抵当に入ってはいるけどおうちに住めるよね。そんな感じです。
権利の存続期間は登録日から25年または30年ですが、この期間中に各年分の登録料が納付されないとか、品種登録の要件を満たしていないとか、植物体の特性が保持されていないなどの事由があれば取消されます。
B.品種登録の要件
区別性
→品種登録の出願前に国内外の公然知られた他の品種と重要な形質の全部または一部により明確に区別できること。
未譲渡性
→日本国内において出願日から1年さかのぼった日(外国においては、日本での出願から4年(果樹など木に成る植物は6年)より前に出願品種の種苗や収穫物を業として譲渡していないこと。
均一性
→同一世代でその重要な形質に係る特性の全部が十分類似していること(播いた種子から同じものができる)
名称の適切性
→種子の名称が既存の品種や登録商標と紛らわしいものでないこと。
安定性
→増殖後も重要な形質にかかる特性の全部が安定していること(何世代増殖を繰り返しても同じものができる)。
まとめ
つまり、品種登録制度は植物の新品種を登録する仕組みで、特許・著作権の「植物版」と言えるものです。
・気になる両者の違い
植物に関しては、知的財産の考えの上では、「品種登録」と「植物特許」があります。両者の違いはなんでしょう。
それは、品種登録制度は種苗法が規定し、植物特許は特許法が規定しています。さらに付け加えると、特許法で保護される対象は「発明」すなわち「技術的思想の創作のうち高度なもの」であり、種苗法で保護される対象は「植物体そのもの」です。
ちょうど著作権でいう、著作権と特許の関係に近いものがありますから、ついでなので「著作権」と「特許」の関係も見ておきましょう。
| 著作権 | 特許権 | |
| 保護の対象 | 著作物(表現物) | 発明(アイデア) |
| 保護要件 | 創作性 | 新規性、進歩性、産業上利用可能性 |
| 権利の享有 | 創作(事実行為) (無方式主義) | 登録(行政処分) (方式主義) |
| 権利の性質 | 相対的独占権 財産権、人格権 | 絶対的独占権 財産権 |
| 保護期間 | 原則死後70年まで | 原則出願から20年まで |
著作権法の目的は文化の振興、特許権の目的は産業の振興、種苗法の目的は品種の育成の振興と種苗の流通の適正化を図り、もって農林水産業の発展に寄与といった違いがあります。
なので、品種登録制度と特許制度の比較も見ておきましょう。
| 品種登録制度(育成者権) | 特許権 | |
| 保護対象 | 植物の品種(種苗、収穫物、一部の加工品) | 発明 |
| 要件 | 区別性、均一性、安定性、未譲渡性、名称の適切性 | 産業上の利用可能性 新規性 進歩性 記載要件など |
| 調査方法 | 原則 栽培試験などの現物調査 | 文献調査 |
| 権利の範囲 | 登録品種、登録品種と特性により明確に区別されない品種など | 特許請求の範囲 |
| 権利の存続期間 | 登録から25年(一部植物は30年) | 出願から20年(一部は最大5年延長) |
| 名称の使用義務 | あり(種苗の譲渡時) | なし |
以上、簡単に種苗法の品種登録制度についてみてきました。
